早ければ4月にも繰り上げ大統領選挙が実施されると見られるなか、昨年11月から世論調査で不動の支持率一位を維持し続ける文在寅(ムン・ジェイン、元共に民主党代表)氏に、あらゆる角度から迫った書籍を紹介する。1月20日に発売され、すでに数万部を売り上げるベストセラーとなっている。

次期韓国大統領候補1位・文在寅氏の人柄を理解するための書

対談形式で編まれた本書では、朝鮮戦争時の1950年に北からの避難民として南の地を踏んだ父の話から、貧しい少年期、そして青年期の挫折と釜山での弁護士時代、故盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領の最側近として政治に関わりを持った後半生までの心情を、文氏が余すことなく語っている。

対談は昨年秋から冬にかけ、3度にわたり行われた。著者は文学者のムン・ヒョンヨル氏。本業の詩や散文をはじめ、四書五経から美術まで幅のある博識を披露し「口数が少ないとされる」文氏からユーモアや悲哀など多彩な表情を引き出すことに成功している。記者出身だけあって、時事問題に対する質問もしつこく行っており、単純な「文在寅礼賛」本にとどまるまいとする努力がうかがえる。

文在寅氏の本の表紙
本書表紙。韓国の有力大統領候補は必ず選挙戦前に本を出す。同じ共に民主党の予備選挙をたたかう李在明(イ・ジェミョン)城南市長の本も先日発刊された。

文在寅氏のストーリー性を補完

筆者(徐)は、韓国に居を構えて15年になる。その間、3度の大統領選挙があった。02年は盧武鉉氏が、07年は李明博(イ・ミョンバク)氏が、そして12年には現職の朴槿恵(パク・クネ)氏が当選した。当選の理由は多岐にわたるが、筆者はこの3人の共通するものとして、相手候補より「ストーリー性」で優位に立っていた点に注目する。

例えば盧氏の場合は「商業高校卒業の人権弁護士で、国会議員となった後も権力と闘い続け、韓国の東西にある地域感情を乗り越えようと実践してきた過去」があったし、李氏の場合は「一介の社員から韓国最大の建設会社の社長にまでのぼり詰めた、高度成長期を体現したサラリーマン神話の主人公」との印象が広く膾炙された。

朴氏の場合は「凶弾に両親を奪われた悲劇のプリンセス、私利私欲を捨て国家に献身する真の政治家」という風に、国民にとって共感と理解のハードルが低い候補がいずれも当選したのだった。

2012年の大統領選挙に敗れた文在寅氏のウィークポイントは他でもない、ここにあった。文氏は11年に「運命」というタイトルの本を自ら書き、30年来の親友であり同志であった盧武鉉大統領が09年に自殺してしまったことにより、運命に導かれるように政界入りした経緯を綴った。

文在寅2012年写真
2012年の第18代大統領選挙当時の文在寅氏。51.6%対48.0%、約109万票の差で現職の朴槿恵氏に敗れた。写真は文在寅氏HPより引用。

だが、当時の韓国国民にとって文在寅氏は最後まで盧武鉉氏のアバター(分身)のように映っていたのかもしれない。盧武鉉と文在寅両氏の違いは良く分からず、文氏自身も本書で述べている通り「国民のあいだに広がりを持って受け入れられなかった」ため、僅差で朴槿恵氏に敗れた。

この点を意識したのか、本書には盧武鉉氏の名前は少ない。文在寅という一人の政治家が何をどう思って生きてきたのか、そして「盧武鉉を超える可能性はどこにあるのか」を読者、ひいては韓国の有権者が探し出せるように作られている。文氏の弱点を補完するための本とも言え、まぎれもなく政治的な意図を持った本である。




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