文在寅氏最大の公約は「公正性の回復」と「共同成長」

文在寅氏は、大統領になりたい最大の動機として「公正性の回復」を挙げる。だが例え大統領になれたとしても、文氏の言う通り不公正がまかり通る今の韓国社会では、今後も攻撃を受け続けることになるだろう。だからこそ「結局は国民の支持があってこそ、既得権を持った勢力と闘える」とし、そして「『ろうそくデモ』の民心が生きている今こそがその適期だ」と支持を呼び掛けている。

2017年2月4日ろうそくデモ
光化門広場で14週にわたり週末ごと行われている「ろうそくデモ」。朴槿恵大統領退陣から政経癒着などの「積弊(積み重なった問題)清算」まで、幅広い内容が扱われている。2月4日撮影。

さらに国家ビジョン「共同成長」を提示し、これを「経済民主化」が実現した姿であるとする。2012年、前回の大統領選挙から一躍、与野党候補の誰もが掲げるお決まりの公約となった「経済民主化」は、韓国の憲法にも明文化されている内容だ。

憲法119条には「国家は均衡のある国民経済の成長および安定と適正な所得の分配を維持し、市場の支配と経済力の濫用を防ぎ、経済主体間の調和を通じた経済の民主化のために経済に関する規制と調整をすることができる」とある。これを受け朴槿恵政権は「公正な分配」を約束したが、「朴槿恵・崔順実ゲート」で明らかになっているよう政経癒着はそのままに、庶民の生活は無視され続けてきた。

文氏は、「政治的な民主主義」の不在にその答えを求め、「今の韓国は1人1票ではなく、1ウォンが1票の時代だ」と指摘する。政治的な民主主義の先に経済的な民主化があり、その先に福祉中心の民主主義があるとのビジョンを示す。

「支持者のための本」の域を出ずも

個人的に最もズシリと来たのは「これまでずっと攻撃を受ける側として生きてきた」という告白だった。人生を通して弱者の側に立ち続けてきた重みにはうならざるを得なかった。

自らを「鍛えあげられた」と称する文在寅氏。本書を額面通りに受け取るならば、その人間的魅力は、格差や不公正にあえぐ韓国社会における大統領のものとして、間違いなく及第点といえる。ただ、政治は人柄だけでできるものではない。過去、苦杯を舐める理由となった「広がりの無さ」の克服について、本書がどこまで役立つのかは未知数と言わざるを得ない。

文在寅写真2017年2月
2月4日、ソウル市内で本書を紹介するブックコンサートが文在寅氏や各界の支持者が参加する中で盛大に行われた。写真は出版社21世紀ブックスのHPより引用。

著者ムン・ヒョンヨル氏自身が文在寅氏に心酔している感が強く、最後まで礼賛本としての域を出ることがなかった点が惜しまれるものの、韓国ナンバーワン人気の政治家の人柄を知るにはもってこいの一冊である。政策的については、今後、党内他候補との予備選挙、そして大統領選挙を通じ明らかになっていくことだろう。(ソウル=徐台教)

付記
本書では韓国国内政治、経済、北朝鮮との関係、外交、日本そして米国とのTHAAD導入などの政策懸案について、文在寅氏がコメントしている。だが、詳細なデータや政策の期日、実現方法などに触れていないため、あまり意味をなさない。今後、文在寅氏の政策集が出る際に最新のものにアップデートされるだろうから、現時点では詳述しない。ひとまず、読者の関心が大きいと思われる内容については抜粋の形で近々、別途掲載する。

書籍データ
題名: [書評]大韓民国が尋ねる -完全に新しい国、文在寅が答える
原題: 대한민국이 묻는다 완전히 새로운 나라, 문재인이 답하다
著者: ムン・ヒョンヨル
ページ数:360ページ
価格:17,000ウォン
出版社:21世紀ブックス(21세기북스)
発行日:2017年1月20日