3月最後の日に、前与党・自由韓国党の大統領候補が洪準杓氏に決まった。洪氏は受諾演説で「これ以上恥ずかしがる必要はない」と保守層の団結を呼びかけた。(ソウル=徐台教)

「無派閥」の洪準杓氏が54%の得票で圧勝

31日午後2時、ソウル市内で行われた自由韓国党第一回政党大会の場で予備選の結果が発表され、同党の大統領選候補に洪準杓(ホン・ジュンピョ、62)慶尚南道知事が決まった。

自由韓国党政党大会1
3月31日にソウル市内の奨忠体育館で開催された自由韓国党の政党大会。数千人を集め、熱気の中で約2時間にわたり党の団結と候補者のお披露目が行われた。筆者撮影。

政党大会に先駆けて行われた予備選本選には、洪氏をはじめ4人の候補が立候補した。責任党員の投票と世論調査を50%ずつ合わせた合計で争われ、洪準杓候補が54.15%の得票率で1位となった。

2位は19.30%で金鎭台(キム・ジンテ、52)議員が、3位は14.85%で李仁済(イ・インジェ、68)同党顧問が入り、金寬容(キム・グァニョン、74)慶尚北道知事は11.70%で4位だった。

当初から洪候補が優勢と見られていたが、下馬評通りの結果となった。

自由韓国党政党大会2
自由韓国党の予備選候補者たち。右から李仁済、金寬容、金鎭台、洪準杓候補。筆者撮影。

筆者も政党大会を実際に見てきたが、朴槿恵大統領逮捕に象徴される「保守が瓦解するかもしれない危機感」が参加者の間に共有され、非常に熱を帯びた空間であった。

豊富な政治経験 「洪トランプ」と呼ばれ舌禍も

1954年生まれの洪氏は62歳。慶尚南道昌寧郡の貧しい農家に生まれ、苦学して高麗大学法学部に入学、その後司法試験に合格し、1984年に検事となる。

検事時代には、当時の全斗煥(チョン・ドゥファン)大統領の親戚の不正に対する捜査を行うなど、時の権力とも闘う姿勢で全国的に有名となった。

その後、95年に政治家に転身し96年には国会議員に初当選、以降4回当選を果たす。李明博(イ・ミョンバク)政権発足当時の08年に自由韓国党の前身・ハンナラ党の院内代表を務め、李元大統領に近いとされる。11年には同党の代表も務めた。12年12月から現在まで2期連続で慶尚南道知事を務めている。

洪準杓バナー
予備選結果発表後、自由韓国党のHPに掲載された、洪準杓氏のバナー。「再び!国民の力で」とある。同党HPより引用。

人物像は、「洪キホーテ」「洪トランプ」「アングリー洪」などという別名からも分かるように、直接的で攻撃的な言動を得意とし、権威に物怖じせずに言いたい事をズバリと言うタイプ。市民の人気は高いが、口が滑ることも多い。

最近では、旧セヌリ党を離党し、正しい政党の大統領候補となった劉承旼(ユ・スンミン)議員に「殺人犯は許しても裏切り者は許さない」と発言したことで劉氏をはじめ世間の非難を浴びた。

行政手腕は、慶尚南道の長年の懸案であった莫大な借金を解消し、清廉度でも2016年に全国1位になったほか、先端工業団地を誘致するなど高く評価されている。

なお、洪氏は1億ウォン(約1000万円)の政治資金を違法に受け取った容疑で裁判中だ。16年9月の一審では懲役1年6か月を求刑されるも、17年2月の二審では無罪となり、大統領選への出馬を表明したいきさつがある。

とはいえ、大法院(最高裁)での判決を残しており、 党内から不安の声が上がっている。判決のタイミングにもよるが、有罪判決がくだる場合は自由韓国党の候補がいなくなる可能性もある。




受諾演説では「保守団結」「庶民派」をアピール

洪準杓候補は大統領候補となった直後、壇上でおよそ10数分のあいだ、熱のこもった受諾演説を行った。

まず「二重に処罰しているようだ」と、この日早朝に逮捕された朴槿恵前大統領に言及し、「国民も朴大統領を許す時が来たのではないか」と訴えた。さらに「私たちが頼ってきた固い壁は崩れ落ちた。洪準杓が国民と自由韓国党の新しい、頑丈な壁のような大統領になる」、「現在は『無政府状態』であるため5月9日に新政府を樹立する必要がある」とした。

また、周辺国について「周辺を取り巻いている4強の指導者、米国のトランプ、日本の安倍、中国の習近平、ロシアのプーチン、みな極右の国粋主義者だ。こんな中で、5月9日に柔弱な左派政府が生まれる場合、韓国が生きていく道は真っ暗だ」と規定し、「肝っ玉と果断性を持った『ストロングマン』が必要な時代だ」と持論を展開した。

洪準杓写真
受諾演説を行う洪準杓候補。筆者撮影。

さらに、韓国で選挙のバロメーターとして重用されている世論調査を持ち出し、「1,000人の応答者のうち、保守右派と答えたのは87人に過ぎない。右派は弾劾のために口を閉ざしている」とし、左派候補が軒並み高支持率を得る今の世論調査自体が「傾いた運動場」だと主張した。

「傾いた運動場」とは従来、韓国の政治風土の中で常に右派が有利な状況を示す言葉であったが、これを逆に用いたかたちだ。昨年の米大統領選のように、静かに右派を支持する「サイレントマジョリティ」が多いと洪氏が解釈しているともとれる。

その上で「今日の朴大統領の逮捕により弾劾は終わった。弾劾を推し進めた『正しい政党』の人たちも戻って来る時になった」と、セヌリ党から分裂した反朴槿恵派の保守議員たちに呼びかけた。「門を開けて待っている。保守大統合を成し遂げ、保守右派の大統合大統領になる」と今後のビジョンを明かした。




安全保障にも言及した。「北朝鮮の核開発は最終段階にある」と危機感を示し「大統領になったらすぐに米国とのあいだで核兵器の再配置に向けて交渉する。核のボタンを共有する」とした。また「北朝鮮の20万におよぶ暴風軍団(特殊部隊)に対するために『海兵特戦司令部』を創設する安保大統領になる」と国防の拡大を宣言した。

続いての「企業を復活させる」という題目では「左派が『経済民主化』を合言葉に企業への締め付けを図っているが、私は企業を解放する」と主張した。「韓国に安心して投資できるようにし、企業の社内留保金を使わせ雇用を作り出し、青年が安心して自身の夢と希望をかなえられるようにする」と抱負を語った。

さらに、「今後、党内に親朴も系派(会派、派閥)もない」と明かし、その根拠として自分自身を挙げた。「与野政党史の中で、系派を持たない一匹狼で大統領候補になったのは私しかいない、洪準杓が候補になったから、これからは系派にこだわらず皆が一つにならなければならない」、「歴代の大統領は系派のせいで失敗した」と自身のオリジナリティを全面に出した。

大統領としての抱負は「金を追うのではなく夢を追う大統領」だとも語った。

「学校に行ったことのない父と、文字を読めなかった母の下で生まれ、1ウォンの遺産もない貧しい出の私が、韓国を建国し、産業化を成し遂げ、金泳三(キム・ヨンサム、93年2月~98年2月まで大統領)を主役に民主化を成し遂げたこの党の大統領候補になれた。これもすべて夢を持って生きてきたからだ」とし、「文字すら読めなかったのに夫と子どもを愛し献身的に生きてきた母のような人が良い暮らしをできるような国にするのが、私の最後の夢」だと淡々と語った。周囲で涙ぐむ聴衆たちの姿が目についた。

洪準杓候補写真2
受諾演説を終え聴衆にお辞儀をする洪準杓候補。筆者撮影。

「皆さんは(当選できるか)心配しているかもしれないが、文在寅(ムン・ジェイン)候補と討論したら10分でねじ伏せる自信がある」と続けるや、一転して会場には歓声が沸き起こった。

洪候補は「皆さんはこれ以上恥ずかしがらず、自由に外に出て行って、5月9日に強いリーダーシップを持った右派政府が生まれるよう、力を合わせてください」と演説を結び、体育館を埋めた聴衆に古来の作法にのっとったお辞儀を行った。




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