国民の党の予備選が終了し、大統領候補は安哲秀候補に決定した。これで国会議席を持つ五大政党すべての候補が出揃い、本格的な大統領選がスタートする。安候補は台風の目でなく本命になる可能性もある。(ソウル=徐台教)

予備選「完勝」で支持率も上昇

4日、大田(テジョン)市内の体育館で「国民の党」予備選最終日が行われた。

七度目となるこの日の現場投票で、安哲秀(アン・チョルス、55)安候補は85.37%の圧倒的な得票率で1位となり、七連勝を飾った。2位は12.37%で孫鶴圭(ソン・ハッキュ、69)候補、3位は2.26%で朴柱宣(パク・チュソン、67)候補の順だった。

安哲秀バナー
予備選後、国民の党HPに掲載されたウェブバナー。安哲秀候補が選出されたとある。同党HPより引用。

また、4月3日~4日にかけて行われた全国世論調査の結果も発表された。安候補はここでも84.20%の支持を集めた(2位孫候補12.85%、3位朴候補2.95%)。

国民の党予備選集計
国民の党予備選集計(4月3日最終版)。安哲秀候補の勢いが見て取れる結果だ。本紙作成。数値は同党発表のものを引用。

同党の予備選規則にしたがう合算結果でも75.01%で1位となり、大統領候補に決定した。安候補は予備選に全勝したことで、党の顔としての存在感を世間に強く印象付けた格好だ。




参考記事:[韓国大統領選D-36]安哲秀氏と国民の党の主張とは?討論会内容まとめ 日韓関係にも言及(4月3日)

受諾演説では「古い枠を壊し、夢のある国に」

安候補は結果発表直後に行った受諾演説でまず「孫鶴圭候補が主張された完全国民予備選の現場投票が、国民の党をより誇らしく作り上げた」、「国民の党の予備選は感動そのものだった」と、同党の予備選が成功裏に終わった点に触れ、党員をねぎらい、国民に感謝を述べた。

完全国民予備選というのは、事前登録された選挙人や党員ではなく、完全に一般市民の投票で党の大統領候補を決めるというもの。

他の手続きはいらず身分証一つで投票できるシステムは、長い政治キャリアを持ち大衆的な知名度や人気が高い孫鶴圭候補に有利とされ、当初安候補はこれに難色を示していた。

だが結果として、予備選には当初の予想を超える市民が参加、全国的な注目を浴びると共に、安候補が完勝するなど話題尽くしで大成功となった。

安候補はさらに、市場で早朝からはたらく市民の姿に言及し「全国で出会った国民の期待を希望を心に刻む」と庶民に寄り添う大統領としての決意を明かした。

また、今や大統領選の行方を左右するといっても過言ではない他党との連合については「政治家による工学的な連帯、弾劾反対勢力にとって免罪符となる連帯、特定の人物を反対するための連帯をしない」と明言、あくまで国民の党の安哲秀として勝負していく姿勢を明確にした。

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祝福を受ける安哲秀候補。国民の党元代表でもある。同氏のフェイスブックより引用。

次いで「産業化、民主化の時代を超え、新しい未来を拓く」、「この国は進歩派の国でも保守派の国でもなく国民の国だ」という主張も加え、「中道改革勢力」としての位置づけをもう一度強調した。

一方で、最大のライバルになる共に民主党の文在寅候補への牽制も忘れなかった。

「分裂主義や覇権主義では国を変えることはできない」、「国民を統合し未来を導く」とした上で、「安哲秀の時間が来たことで文在寅の時間が去りつつある」と、異例ともいえる名指しでの言及を行った。

ハイライトは「去る2012年、私が完走できなかったことに失望した国民がいたことを知っている」、「私は2012年よりも100万倍、1000万倍強くなった」という部分だ。

この5年のあいだ、やれることはやってきたという充実感をにじませ、2012年には見られなかった断固とした、強い指導者の姿を強く印象付けた。

筆者としては、上述した部分以外では、演説内容が全体的に抽象的で、感傷的だったのが気になった。




五年前よりも一回り大きくなった安哲秀氏

韓国の人々は今も、5年前の大統領選を昨日のことのように覚えている。中でも、2012年11月23日の安哲秀氏の「白衣従軍」発言を忘れた人はいないだろう。

当時、文在寅候補、朴槿恵候補と三つ巴の競争を繰り広げていた安哲秀氏が、「文在寅候補に候補を統一する」と涙をにじませ辞退を宣言したのだった。既存の政治家の姿とは違う、清廉で誠実、有能なイメージの安氏が、現実の政治の前に敗退した瞬間だった。

それから5年、安哲秀候補は堂々と戦線に戻ってきた。

安哲秀バナー2
力強いイメージへの「変身」はインターネット上で話題となり、たくさんのパロディも作られた。野太い声がルイ・アームストロングに似ているということで、「安ムストロング」というあだ名も。バナーは同党のフェイスブックより引用。

自身が立ち上げた国民の党に加え、湖南(光州、全羅南北道)地域と首都圏という地盤、離合集散を繰り返す政治世界でのリーダーシップを手に一回り大きくなった姿をこの日、見せつけた。

それは、一部で「似合わない」との批判もあるほどの野太い声でのスピーチに代表されるよう、ベンチャーの英雄でも時代の癒やし手でもない、毀誉褒貶の中を生き延び、勝ち抜いてきた職業政治家としての安哲秀だった。

受諾演説の中の「政治を学ばずに政治を変えろと言ったのも国民、恐ろしい荒野に一人で立っている時に手を差し伸べてくれたのも国民。もう一度、機会をくれたのも国民です」という部分が、安候補の5年間を何よりも表しているように思えた。




大統領選挙の台風の目、連帯の有無が焦眉の関心に

では今後、安哲秀候補はどう勝利するのだろうか?現在、いくつかの世論調査を見ると、安候補は支持率は20%前後で軒並み2位につけている。

これは共に民主党の予備選で敗れた安熙正(アン・ヒジョン)忠清南道知事を支持する層の票が移動してきたもので、今後も中道を掲げる安哲秀候補に安定してとどまると見られる。

一方、「文在寅対安哲秀の一騎打ち」を想定した世論調査では、安哲秀候補の優勢を伝えるものも出てきており、韓国メディアでは「安風」とはやし立てている。

だがこの「一騎打ち」が実現するのかに対し、否定的な見方をする専門家が多い。

洪準杓写真
3月31日、自由韓国党の大統領候補に決まり受諾演説を行う洪準杓候補。筆者撮影。

一騎打ちのためには、自由韓国党の洪準杓(ホン・ジュンピョ、62)候補と、正しい政党の劉承旼(ユ・スンミン、59)候補が安候補に一本化する過程が必要になる。

だが、安候補と国民の党の地盤である湖南地域は民主化の象徴とも言える地域であるため、朴槿恵大統領と共に国政ろう断を行ってきたた見なされる自由韓国党の連帯を受け入れる余地はない。安易な票の追及が党の空洞化につながる危険がある。

これを知る安候補も4日の受諾演説で「連帯はない」と言明した。

となると今後、安候補の選択は自身の勢力を伸ばすことしかない。その過程で洪候補や劉候補が自身の傘下に入って来るか、候補を辞退するのを待つことになるだろう。

支持基盤がはっきりしている文在寅候補に比べ、流動的なのが安候補の長所でもあり短所でもある。タイミングと「連立による安定」という大義名分さえうまく作用すれば、台風の目を超え、本命になる可能性も少なくない。




参考記事:[韓国大統領選D-36]安哲秀氏と国民の党の主張とは?討論会内容まとめ 日韓関係にも言及(4月3日)

安候補の受諾演説全文

4日の安哲秀候補の受諾演説全文訳を掲載する。翻訳は筆者。

国民の党大統領候補 安哲秀 受諾演説全文(2017年4月4日)

尊敬する国民のみなさん!
愛する党員同志のみなさん!

ありがとうございます。
本当にありがとうございます。

変化と改革を望む、本当にたくさんの国民の方たちが予備選に参加してくれました。
ありがとうございます。

大統領選の勝利を願う党員同志のみなさんが、もう一度奇跡を起こしてくれました。
ありがとうございます。

政党史上はじめての日程の中での、何のアクシデントも無く予備選を管理していただいた党関係者のみなさん、ありがとうございます。

見えない所で変わらず私を応援してくれた妻の金ミギョン教授にも、ありがとうという言葉を送ります。

美しい予備選で私たちすべてを輝かせてくれた尊敬する孫鶴圭候補、朴柱宣候補に特別な感謝の挨拶を捧げます。

孫鶴圭候補が主張された完全国民予備選の現場投票が、国民の党をより誇らしく作り上げました。
朴柱宣候補がおられたからこそ、湖南をはじめとする全国で、国民の党の自負心を高めることができました。
本当にありがとうございます。
みなさんも二人の候補の方々に熱い拍手を送ってください。

尊敬する国民のみなさん!

私は今日、この瞬間に謙虚な想いと厳粛な覚悟で国民の党第19代大統領候補の候補職を受諾します。

大韓民国の未来を拓く大胆な挑戦を始めます。
私と熱い旅程を共にしてくれた孫鶴圭、朴柱宣の二人と力を合わせます。
必ず大統領選で勝利します。
孫鶴圭の安哲秀、朴柱宣の安哲秀、国民の党の安哲秀、国民の安哲秀となって、圧倒的な勝利を奪取します。

勝利の道、共に歩んでくれますか?みなさん!

安哲秀写真
安哲秀候補。この日の受諾演説はシャツの袖をまくり上げて行った。同氏のフェイスブックより引用。

尊敬する国民のみなさん!

国民の党の予備選の投票場の姿は感動そのものでした。
傘をさして、幼い子供の手を引いてきた若い夫婦に会いました。
子どもたちの無邪気な笑顔を見ながら、何度も決意を新たにしました。
次の世代が生きていく公正な国を必ず作っていきます。

市場で出会った総菜屋のお母さん、果物屋のお父さんは「商売あがったりで死にそうだ」とおっしゃいました。
それでも明け方から仕入れにいって、準備をしてお店を開けます。
子どものために大変で苦しくても、歯を食いしばって商売を続けているのです。

その方たちがみな、私の手を握り締めて「どうか国をしっかりと変えてほしい」とおっしゃいました。

私、安哲秀、全国で出会った国民たちの期待と希望を心に深く刻んでいきます。

平凡な国民の力を一つに合わせ、非凡な大韓民国を作り上げます。

力を合わせてくれますか、みなさん!

尊敬する国民のみなさん!

私に政治を学ばずに、政治を変えろと呼びつけた方も国民です。
寂しく恐ろしい荒野に一人で立っている時に手を差し伸べてくれたのも国民です。
もう一度、機会をくれたのも国民です。

国民だけを見て進んで行きます。
国民に助けてくれと手を差し伸べることはしません。
国民に助けて差し上げると手を差し伸べます。

私、安哲秀、国民のための、国民による、国民の大統領になります。

国民の切実な要求に政治が応答する時です。
派閥主義、覇権主義を克服しなければなりません。
政治家による工学的な連帯をしません。
弾劾反対勢力に免罪符となる連帯をしません。
特定の人物を反対するための連帯をしません。
ただ、国民による連帯だけが真の勝利への道となります。




私、安哲秀、ただ国民だけを信じて、安哲秀らしく堂々と勝利します。

私は支持率が低い時にも大統領決選投票制を主張してきました。
ただの一度も有利か不利かを計算しませんでした。
今や国民に力で決選投票をしていただく時になりました。
偉大な国民の力で、過半数の支持を超える大統領にしてください。

それでこそ統合し、改革しながら未来を拓いていけます。
産業化、民主化の時代を超え、新しい未来を拓かなければなりません。

この国は進歩派の国でも保守派の国でもありません。
国民の国です。

この国は青年の国でも老人の国でもありません。
国民の国です。
この国は男性の国でも女性の国でもありません。
国民の国です。

互いに対するレッテル貼りを終わらせてこそ、未来に進むことができます。
分裂主義、覇権主義では国を変えることはできません。
派閥覇権主義は、言うことをよく聞き、列に良く並ぶ人を重用します。
私は大韓民国最高の人材を、広く訪ね起用します。

分裂させる政権ではなく、実力重視のドリームチームを作ります。
公職は証明する地位であって、経験する地位ではありません。
最高の人材と討論し未来を準備する、若い大統領になります。
第4次産業革命の時代に、未来の雇用、未来の稼ぎ頭をしっかり作っていきます。

私、安哲秀、古い過去の枠をぶち壊し、未来を拓くはじめての大統領になります!みなさん!

尊敬する国民のみなさん!

夜が去って陽が昇るのではありません。
日が昇るから夜が去っていくのです。

冬が去るから春が来るのではありません。
春が来るから冬が去っていくのです。

安哲秀の時間がきました。
安哲秀の時間がきたことで、文在寅の時間が去りつつあります。
国民統合の時間がきたことで、覇権の時間が去りつつあります。

尊敬する国民のみなさん!

3月の風と4月の雨が5月の花を咲かせます。
春は夢です。
春は緑色です。
緑の台風が私たちにまた夢を見させてくれるでしょう。
夢があってこそ未来があります。




夢見る若者と共に、躍動的な起業国家を作っていきます。
相続を受けた人ではなく、自力で成し遂げた人が成功する国を作っていきます。

今日は米国の人権運動家マーチン・ルーサー・キング牧師の忌日です。
みながこう言えなければなりません。
「私には夢があります」

青年たちが夢を見られるようにします。
女性たちが夢を見られるようにします。
すべての国民が夢を見られるようにします。

私、安哲秀が大韓民国が再び夢を見られるようにします。

未来に進まなければなりません。
前を向いて歩いていかなければなりません。
後ろを向いて歩くと、速く進むことも、遠くに行くことも、まっすぐ進むこともできません。

尊敬する国民のみなさん!

この国は、経済も安全保障も、外交も危機です。
まともな大統領を選ばなければなりません。
経済を再生させる有能な大統領を選ばなければなりません。
強固な自強安保を実現させる大統領を選ばなければなりません。
正直で清廉な大統領を選ばなければなりません。
国民を統合し、未来を導く大統領を選ばなければなりません。
私がより良い政権交代を果たします。

去る2012年、私が完走できなかったことに失望した国民がおられることはよくわかっています。
しかし私、安哲秀、
2012年よりも100万倍、1000万倍強くなりました。

そう思いますか、みなさん!

今回は必ず勝利します。

大韓民国の安保のために勝利します
大韓民国の経済のために勝利します。
国民のために勝利します。
改革のために勝利します。
未来のために勝利します。
受け継ぐべき遺産がなくとも、
実力で威光に勝てる、
誠実な国民のために勝利します。

私、安哲秀、圧倒的な大統領選の勝利で今日の選択に報います。

強い大韓民国を作り上げます。
輝く大韓民国を作りあげます。

ありがとうございます。