一連の発言をどう捉えるべきか?

会見の要旨を見る限り、李警察庁長を合理的で市民寄りの人物と思うかもしれない。だがその裏には警察側の周到な計算があると見るのが妥当だろう。

李警察庁長は韓国警察官史の中でも「伝説」の人物である。1982年に巡査として警察官のキャリアをスタートするも、1989年に幹部候補生のテストを受け再任官、その後も出世を重ねることで、ついに今年8月に警察庁長にまで上り詰めた。努力を惜しまない職務に忠実な性格とされ、警察内での信頼は厚いと韓国ではこれまで報じられてきた。

ただ、その忠実さがどこに向けられているのかについては疑問がつきまとう。特に2013年12月から2014年8月にかけて、慶尚南道警察庁長(慶尚南道の警察トップ)を務めた際の「暴力性」には言及しておかなければならないだろう。

2014年6月11日の強制執行当日の写真。敷地を占拠する年配の女性を警察官が排除している。写真は「密陽765KV送電塔反対対策委員会」HPより引用。
2014年6月11日の強制執行当日の写真。敷地を占拠する年配の女性を警察官が排除している。写真は「密陽765KV送電塔反対対策委員会」HPより引用。

当時、同道の密陽(ミリャン)市には南東の釜山(プサン)市に建設中の新古里原発三号機からつながる765キロボルトの超高圧送電塔の建設が進められていた。送電塔からの電磁波による健康や農業、地価への悪影響が予想されることから、現地住民が数年にわたって建設に反対する活動を繰り広げてきた。

これに終止符を打ったのが、2014年6月11日から行われた政府の強制執行であり、指揮を執ったのが当時の李慶尚南道警察庁長であった。在任中に延べ30万人を超える警察官を動員し、反対派を「一掃」したことは、李氏が警察庁長になれた「功績」の一つと見られている。

さらに、今年8月の就任に先立つ「人事聴聞会(大統領が任命した高官に対する国会の精査)」の際には、93年に飲酒運転で事故を起こし検挙された当時、警察官であることを隠したことが明らかになり、国会が任命を拒否する騒ぎもあった。これにも関わらず、大統領権限で警察庁長に任命されている。

キャスティングボードは市民に

筆者はこれらを根拠に、7日の会見で李警察庁長が示した「ろうそくデモ」への融和的な態度は、市民に同調してのことではなく、ただひたすら「市民を刺激しないようにする」という政府の目的に沿ったものであると判断する。

冒頭にリンクした先日の記事でも言及したが、今、朴槿恵政権がもっとも恐れているのは「市民の怒りが世論の許容範囲を超えること」である。そうなれば、今でさえ手を離れつつある政局が、完全にコントロール不能になる。野党が政府を圧迫する確たる根拠が生まれ朴大統領は「下野=辞任」しか選択肢が無くなるからだ。

11月5日の「ろうそくデモ」の様子。
11月5日に光化門広場から都心一帯にかけて行われた「ろうそくデモ」の様子。

一方の「ろうそくデモ」主催側も警察車両への攻撃などの行動によって、「一般市民の意識とはかけ離れたデモ」との認識が広がり参加者が減ることに注意しているため、12日にも大きな混乱が起きる可能性は少ないだろう。

ただ、表向き平和なデモも、危うい均衡の上にある点を指摘せずにはいられない。「やり過ごしたい」政府と、「結果を出したい市民」の関係は、今もくすぶり続けている。