投票日を明日9日に控える韓国大統領選。各候補は地方での選挙運動をほぼ消化し、ソウルに集結しつつある。本紙では投票に先だち、朴槿恵大統領の弾劾により直接投票制が始まった87年以降、はじめての前倒し選挙となった今回の選挙をどう評価するのか、そして新たに就任する大統領を待つものは何か、気鋭の政治学者である李官厚(イ・グァンフ)西江大学現代政治研究所研究教授に話を聞いた。インタビューは4月28日に行われた。聞き手は徐台教。(ソウル=徐台教)

インタビュー記事リンク
[韓国大統領選D-2]政治学者、李官厚氏インタビュー (1)大統領選の評価は「50点以下」
[韓国大統領選D-2]政治学者、李官厚氏インタビュー (2)新大統領就任後は「9月国会前まで混乱続く」
[韓国大統領選D-2]政治学者、李官厚氏インタビュー (3)韓国民主主義の課題は「有権者から市民へ」

李官厚(イ・グァンフ)教授プロフィール

1976年10月生まれ。西江大学政治外交学部、同大学院修士課程卒業。英国University College Londonで政治学博士を取得。現在、西江大学現代政治研究所研究教授。過去、2人の国会議員の下で合計6年間のあいだ補佐陣を務める。「良い代議民主主義はいかに可能か」が研究テーマ。研究の傍ら、西江大、慶煕大などで講義を行う。

李官厚研究教授写真
李官厚研究教授。進歩派の政治学者に分類されるが、陣営論に捉われず鋭い批判を行うことで知られている。4月28日筆者撮影。

大統領選の評価は「50点以下」

問:いよいよ大統領選が残り10日(当時)となった。これまでの大統領選に点数をつけるとすれば何点か。

:50点かそれ以下と見ている。

問:思ったよりも厳しい評価だ。その理由は何か。

:今回の選挙は「ろうそく(編注:ろうそくデモ→弾劾というろうそく革命を指す)」により朴大統領を弾劾し行われた選挙だ。ろうそくの民心というのは、これまで続いてきた政治的な慣行や不正腐敗に代表される「社会構造を変えよう」というのが半分、政権交代が半分だった。それが「政権交代」という半分の成功にとどまったことから、評価は50%もしくはそれ以下となる。

問:社会構造とはどういうことか、詳しく説明してほしい。

:われわれの世代の時にも、大学の不正入学というのはたくさん存在した。特に、運動や芸術分野では数百人にのぼった。だが、当時の大学は今よりも入りやすく、格差も今ほどでは無かった。田舎出身でも勉強ができれば入ることができた。しかし今はそうではない。両親の貧富の格差が学校だけでなく、就職にまで影響を及ぼすようになった。

大学生の青年たちとその両親たちは、崔順実と娘チョン・ユラのような問題に非常に敏感だ。夜中にコンビニでアルバイトをしながら、眠い目をこすってやっとの思いで取った単位を、親の力を使い出席もせずに取るような事や、崔炅煥(チェ・ギョンファン)元副総理が知人の息子を就職させたような不正行為は、奨学金に加え、金融機関に借金までしながら学校に通い就職準備をする「ヘル朝鮮」の親子の下では、容認できないものになる。

このように昔と今では社会が変わった。不平等になったということだ。

問:たしかに「ヘル朝鮮を変えよう」という声は、ろうそくデモの原動力であり、選挙前に非常に大きかった。これが選挙戦に入り消えてしまった理由のひとつに、今回の選挙期間が60日と短い点が関係していないだろうか?

:そうとも言える。早期大統領選挙が国民にとって幸せだったのかが個人的には疑問を持っている実は昨年(2016年)夏、各政党ともに社会の不平等の解消が必要だとしていた(編注1)。

セヌリ党でさえ、そのように主張していた。もっとも、いわゆる「貴族労組(高年俸の専従労組)」が問題で、労働者間の賃金格差が問題だとしていたが。それでも福祉の強化や、企業投資の増加を主張し、法人税の引き上げまでも検討していた。

また、民主党も韓国社会の不平等の問題が、2017年の大統領選挙における最大の焦点になると見ていた。しかし、早期選挙により、このアジェンダ(議題)が消えてしまった。弾劾されて良かった点もあるが、この点を非常に惜しく思っている。




問:それでも選挙戦で、十分に取り上げられる内容なのではないか?

:どの候補、政党も、韓国社会の不平等の問題を取りあげる準備が十分にできていなかった。できていたら、(韓国社会で共感を呼べる)この問題を切り出さないはずがない。この点で、準備不足に加え、各キャンプの能力不足も露呈した。選挙戦は結局「ファンダム政治」になり、私生活の検証などに話題にとってかわられた。

編注1:「ファンダム」とは、特定の人物を熱狂的に支持するグループのこと。「ファンダム政治」は、好きな政治家個人に忠誠を誓い、他の候補を徹底的にけなす形で行われる。

安哲秀候補の失敗と、候補者たちに共通する「問題」

問:候補者間で差別化ができなかったと受け止めたい。安哲秀候補が一時期、支持率が30%を超え、文在寅候補に僅差の2位にまで躍進したが、今はまた勢いが20%ほどに落ちている。安哲秀候補の選挙戦をどう評価するか。

:安候補には十分なチャンスがあった。そもそも安候補は今のように「右(保守)」の票を狙うのではなく、「左(進歩・革新)」の票を取りに行くべきだった。「ろうそくデモ」以降、50代で40%、60代で60%あったセヌリ党(現・自由韓国党)支持層が半減した。

韓国の保守層はこれまで、当選可能性のない投票をしたことがない。死票心理への訓練ができておらず、死票にしたくない気持ちが強い。安候補が文候補より右寄りというのは皆が知っていることだ。セヌリを離れた層は、安候補に投票する準備ができている。

安哲秀写真
国民の党の安哲秀(アン・チョルス)候補。4月6日筆者撮影。

ここで安候補は「右寄り」をアピールするのではなく「勝てること」を示すべきだった。

具体的には、文在寅候補支持者のうち、もっとも右寄りの層を崩すべく、文候補を左に追いやるような選挙戦をするべきだった。この際の方法は、参与政府(盧武鉉政権)を攻撃することが挙げられる。

単純に李明博、朴槿恵大統領だけが今日の「ヘル朝鮮」という不平等な社会を作ったのではなく、金大中、盧武鉉政権時に新自由主義を取り入れたことで韓国社会の不平等が始まった。この点において参与政府で大統領秘書室長を務めた文在寅候補には最低限の責任があるという論理だ。

金大中政府には先の金泳三政府の下で国家破産の危機を迎え、支援を受けるIMF(国際通貨基金)からの強制があったとしても、盧武鉉政権は新自由主義を積極的に取り入れた側面があるという批判を、安哲秀候補は比較的自由に行える立場にあった。

その上で韓国社会の不平等の改正を訴え、「文在寅候補は盧武鉉元大統領との違いを示すべきだ、そうでないと韓国社会が後退する可能性がある」と指摘するべきだった。だが実際には安候補が文候補に肉迫した際に選択したのは「右傾化」だった。




問:判断を誤ったということか

:簡単に選挙をやろうとしたということだ。私も六年間国会議員の補佐陣として働きながら選挙戦を行ったことがある。選挙を優勢に進めていたり、相手のミスで差が詰まったりする時など「勝てる!」と確信できる場合がある。その時にどう動くかが重要だ。手を抜くと、すぐにまた差が開くことになる。安哲秀候補は安易な右傾化を選んでしまった。

しかし、文在寅候補も褒められたものではなかった。やはり安易に選挙を進め過ぎていた。例えば、共に民主党の予備選で「善意」発言(編注2)を行った安熙正(アン・ヒジョン)候補を包容することなく、そのまま勝ってしまった。もともと、予備選が苦しいほど、本選ではラクになる。文候補も「たしかに政治は殺し合いではない、自分も安熙正候補の態度に学ぶべきだ。自由韓国党は無理でも、正しい政党は受け入れる」くらいのことは言えたはずだ。こう見ると文在寅候補も未熟と言わざるを得ない。

編注2:共に民主党の予備選に立候補した安熙正忠清南道知事は2月19日、「朴槿恵大統領も李明博大統領も善意をもって、生活が厳しい人のためにいい政治をしようとしたが、思い通りにいかなかった」と発言、物議を醸した。

問:1位、2位の候補いずれも未熟であるということか?

:そうだ。候補者本人とキャンプ(候補者を中心とした選挙対策チーム。後述するが党組織とは異なる)ともに政治的な能力が不足している。果敢性がなく、判断力が悪い。両候補の戦略と戦術がともに不足していた。

例えば、YS(金泳三)やDJ(金大中)は政治的に卓越していた。誰も思いつかない政治的な手段を取ることができた。YSが断食を始めた時(編注3)もそうだった。彼らには政治的な想像力や戦略、能力があった。

盧武鉉元大統領もそうだった。02年の大統領選の際の党内予備選で、義父が朝鮮戦争(1950~53年)当時、パルチザン活動をしていた経歴をしつこく攻撃された。窮地に追い詰められた彼が発したのは「それでは妻を捨てろというのですか」のひと言だった。これにより状況は一点し「左翼」のレッテルから抜け出せた。

しかし今の大統領候補は、誰が当選しても政治力を発揮する政権になるとは思えない。これは前に述べたような、今回の大統領選が「ろうそくの民心」である社会構造の問題を追及できなかった点とはまた別の次元で惜しい部分といえる。

編注3:故金泳三元大統領は、野党の指導者だった1983年5月18日、3年前に起きた光州民主化運動を想起し、「国民に捧げる文」を発表し、その中で「民主化5か条」に言及し、断食闘争を始めた。その後、6月10日まで23日のあいだ続けることで、当時の全斗煥政権に大きなダメ―ジを与えた。

(2)に続く。

[韓国大統領選D-2]政治学者、李官厚研究研究インタビュー (2)新大統領就任後は「9月国会まで混乱続く」