気鋭の政治学者・李官厚氏へのインタビュー第二弾は、大統領選後に待ち受ける事態についての分析を中心にまとめる。韓国の大統領選特有の問題を、今回の候補たちも克服できていないと強く指摘する。(ソウル=徐台教)

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[韓国大統領選D-2]政治学者、李官厚氏インタビュー (1)大統領選の評価は「50点以下」
[韓国大統領選D-2]政治学者、李官厚氏インタビュー (2)新大統領就任後は「9月国会前まで混乱続く」
[韓国大統領選D-2]政治学者、李官厚氏インタビュー (3)韓国民主主義の課題は「有権者から市民へ」

李官厚(イ・グァンフ)教授プロフィール

1976年10月生まれ。西江大学政治外交学部、同大学院修士課程卒業。英国University College Londonで政治学博士を取得。現在、西江大学現代政治研究所研究教授。過去、2人の国会議員の下で合計6年間のあいだ補佐陣を務める。「良い代議民主主義はいかに可能か」が研究テーマ。研究の傍ら、西江大、慶煕大などで講義を行う。

李官厚研究教授写真
李官厚研究教授。進歩派の政治学者に分類されるが、陣営論に捉われず鋭い批判を行うことで知られている。4月28日筆者撮影。

文在寅候補当選時に人事問題が顕在化か

問:4月27日に放送記者クラブ主催の文在寅候補の討論会を見に行ったが、大統領の風格が出ていた。世論調査も優勢が伝わり、当選可能性が高そうに見えた。

:そういった話は多く聞く。記者たちも「誰が優勢ですか?」と聞かずに「文在寅候補が当選しそうですね」と聞くようになった。

問:先に、候補たちの未熟性を指摘しながら、キャンプにも問題があるとした。

:DJ(金大中元大統領)以降、韓国ではキャンプが大統領選をたたかい、キャンプが集権する慣例が長く続いてきた。与党とキャンプは選挙の過程から結びついておらず、当然、集権後にも結びつくのが難しい。

このため、大統領就任後一年は、野党ではなく与党のを掌握するのに時間を使うことになり、政治的なエネルギーを浪費する。今回、共に民主党の文在寅候補が予備選で勝利した後、党代表の秋美愛(チュ・ミエ)議員が中心となり選挙対策委員会の人選を進めたが、文候補のキャンプ側と意見が合わず、発足が遅れる事件があった。

これこそが文在寅候補が大統領に就任した後に起きる事態をあらかじめ示している。文候補のキャンプには教授が1000人もいる。「なぜそんなに多いのか」と、やはり同キャンプに名を連ねる知人の教授に聞いたところ「李明博、朴槿恵と保守政権が2度続いたため、政治的な野心を持つ(進歩派の)教授が列をなしている)」ということだった、

共に民主党の文在寅(ムン・ジェイン、64)候補。「負けたら政界引退」を掲げる。同氏フェイスブックより引用。
共に民主党の文在寅(ムン・ジェイン、64)候補。「負けたら政界引退」を掲げる。同氏フェイスブックより引用。

問:1000人は通常よりも多いのか?今回は政権引き継ぎ委員会も無いが。

:通常は200~300人だ。多ければ良いというものではない。当選者は通常、支持基盤、キャンプ、与党にポストを分配するが、人数が増えると容易ではない。これは文在寅政権発足後の序盤に大きな負担となる。

さらに政権引き継ぎ委員会が無いことで、人事の問題がオープンになってしまう危険性がある。従来、外部との出入りを極度に警戒する引き継ぎ委員会の役割は、国政の引き継ぎではなく人事の内定だ。

従来、2か月にわたりたっぷりと、徹底的な情報統制の下で行われるべきことがオープンになると弊害が大きい。例えば選考に落ちた人物が、選考に通った人物の過去の悪事などをメディアに暴露するようなことが十分に起こり得る。

メディアもこのような話に飛びつくだろうし、そうなると収拾がつかない。歴代政権は発足直後、内部の選定を通過した人事が聴聞会でひっかかり、「聴聞会で時間を浪費する」傾向が見られたが、今回起こるのはその程度の混乱ではないだろう。

先にキャンプの問題と言ったが、その問題もまた、人事と結びついている。キャンプは選挙戦を行う過程で苦しくても、戦力の拡張もしなければ、人力不足を敢えて補おうともしない。また、党に支援を要請することもない。なぜかと言うと、そうすることで当選後に「分け前」が減ることを恐れるからだ。

今回のように1位の候補が固まると、キャンプ内部での「椅子取り」が始まる。青瓦台に入れるのは50人だからだ。他人の足を引っ張ることを仕事にし始める。こうして狭い人材プールだけが残ることにになり、これが後に国政運営の際に問題になる。




問:それでも共に民主党は党とキャンプがうまく協働しているように見える。

:確かに党組織はうまくやっている。文在寅候補のメッセージなどは、候補周辺のキャンプが行っている。組織的な部分では党が動いているが、政策とメッセージについて党は関与できない。

組織がうまく回る理由は、ここで一生懸命やってこそポストを貰えるというアピールの部分もある。特に共に民主党の国会議員が一生懸命やっているのは勝利が確実だからだ。議員は通常動かない(笑)。

文候補が1位になる感触があるから、党が一生懸命になる。「党の寄与度が50%だから、長官ポストの5割をくれ」と要求できる。悪いことではないが、党は通常、大統領選を熱心にはやらない慣例からすると素直な気持ちで見ることは難しい(笑)。

問:当選以後に、人事をはじめとする混乱はいつまで続くと見るか。

:9月の正規国会(国会本会議)の開催前までは続くのではないか。行政部、監査院長など主要機関人事、次官、傘下機関の長まで決めなければならない。議員、党職者、教授など割り当てられる。青瓦台内部、与党内部での「椅子取り」をめぐる人事の混乱は3か月は続く。与党が「やっと終わった!」と言える時、気が付いたら国会が始まっているだろう(笑)。ちなみに最も注目されるのが検察人事だが、これも簡単ではない。

市民は我慢を強いられる

問:昨年10月末から、ろうそくを掲げ続けた市民が、その3か月を見守ることができるか。

:文在寅の熱烈ファンはキャンプと青瓦台を支持するため、共に民主党に対し悪口を言うだろう。逆に一般の民主党員は青瓦台の独走をけん制することになり、支持者同士が争うことになる。

SNS上でも今は、文在寅候補と沈相奵候補が激烈に争っているが、政権発足後にもこれが繰り返されると見る。青瓦台が推薦する長官候補を擁護する立場と、狭い人材プールからの登用に対する批判が強まるだろう。これを外から眺めなければならない一般の国民は気が重いはずだ。「椅子の取り合い」を見る度に「何も変わっていない」と感じることになるだろう。




問:当選以後の問題のうち最も重要なものは。

:誰が当選しても国会で過半数に満たない。民主でも119議席に過ぎない。それぞれの候補が掲げる公約があるが99%は立法を通じて行われる。大統領施行令はとても制限的だ(編注4)。

安定的な政局運営には国会の協力が不可欠だ。内閣の構成、政策執行の効率性などを考えた場合は特にそうだ。国会へのけん制と均衡も大事であるが、協力なしには国政運営ができないようになっているため、大統領と国会の合意が必ずいる。

また、青瓦台の独走を警戒しなければならない。それは憲法精神にも会わないし民主主義的でもない。国政運営をいかに安定的に行っていくか、そして、国会といかに協力していくべきかがもっとも重要だ。

問:うまくいくと思うか?

:うまくいかないと予測する。だめな場合には、これまでの考えを変えればよい。選挙過程での競争は必然だったと割り切るべきだ。例えば安哲秀候補に対しては「依然として立派なリーダーだと思う」とし手を結ぶ必要がある。他党候補とも協力し、公約内容の近い労働、福祉、教育分野で協力する。

「協力が可能な部分からまず協力する。青瓦台が独走しない。国会を尊重する」点をまず明らかにする必要がある。

編注4:「国会先進化法」により、現在では国会議員の6割・180席の賛成が無ければ法案が成立しない。

(3)に続く。

[韓国大統領選D-2]政治学者、李官厚研究教授インタビュー (3)韓国民主主義の課題は「有権者から市民へ」