韓国政治を専門とする李官厚研究教授へのインタビュー第三弾は、韓国の民主主義の今後について聞いた。大統領の弾劾を経て民主主義が生き返ったかのように見える韓国も、遠からず民主主義への懐疑に陥る可能性が高いという。それを乗り越えるためには、有権者から市民への転換が必要だと語った。(ソウル=徐台教)

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李官厚(イ・グァンフ)教授プロフィール

1976年10月生まれ。西江大学政治外交学部、同大学院修士課程卒業。英国University College Londonで政治学博士を取得。現在、西江大学現代政治研究所研究教授。過去、2人の国会議員の下で合計6年間のあいだ補佐陣を務める。「良い代議民主主義はいかに可能か」が研究テーマ。研究の傍ら、西江大、慶煕大などで講義を行う。

李官厚研究教授写真
李官厚研究教授。進歩派の政治学者に分類されるが、陣営論に捉われず鋭い批判を行うことで知られている。4月28日筆者撮影。

韓国の「保守派」と「進歩派」とは

問:民主主義について聞いていきたいが、その前にまず、韓国の「保守」と「進歩(革新)」について教えて欲しい。読者からの質問が最も多く寄せられる部分だ。

:韓国が他の国と違うのは「南北分断」があるという点だ。その上で定義する。

保守は「反共主義」、「反北朝鮮」が核心的なアイデンティティとなる。一般的な保守が持っている「伝統に対する守護」、「個人に対する尊重」、「共同体主義」などを探すのは難しく、国家主義が強い。

こうした保守の特徴を最もよく表しているのが洪準杓(ホン・ジュンピョ、64)だ。彼はこれまで70年間続いた韓国の保守主義の主流といえる。保守層は、反共、反北朝鮮なので、米国に対する強い愛着心がある。さらに韓国が危機に陥った場合、(朝鮮戦争時のように)また米国が助けてくれるという心情がある。もともと保守は愛国主義であるため、他国に依存することはないのに不思議である。

さらに極端な市場放任主義が特徴として挙げられる。これは1987年の民主化以降、保守のイデオロギーになった。理念的な根拠があってそうしたのではなく、米国式に従っていくために自然とそうなる。また、反共主義があるため、社会民主主義に対する極度の警戒心を持っているのも特徴だ。

進歩派も分断の影響がやはり強い。87年以前には「社会主義」という言葉を使えなかった。当時は「民主主義」、「反独裁」が強かった。反共の名分で独裁政治を行っていることに対する反対運動と位置付けられる。

87年以降は多少自由になり、現在の正義党や沈相奵候補のような社会民主主義的な部分が少しずつ育つ。しかし韓国社会で依然として禁止されているのが、親北朝鮮、親共産主義だ。これらは許容されない。2014年12月の統合進歩党の解散がいい例だ。

保守と進歩の中間に立っているのが文在寅氏と安哲秀氏だ。この二人を私は自由主義と見る。より進歩的な自由主義が文氏で、保守的な自由主義が安氏、安氏より少し右に劉承旼氏が、最も右に洪準杓氏がいる。そして文氏の左に沈相奵氏という枠組みははっきりしている。




ろうそくから大統領選まで「省察」不在 今後は有権者から市民へ

問:今回の大統領選を「市民不在の大統領選挙」と評す向きが強い。どう思うか。

:そういった側面が強くある。市民による政治と「ファンダム政治」」の差を指摘しているものだ。振り返ると「ろうそくデモ」の意味は2つあった。

まず、祝祭の場としての「ろうそく」だ。あの場には多様な候補を支持する人が集まっていた。しかし祭りが終わって家に帰ってみると、支持する候補者だけが正しいと言う風潮がとって変わった。

こういう話をたくさん聞いた。2,3か月のあいだ週末ごとにろうそくデモの現場で会って、韓国の新しい政治について悩みを共有し、お互い合意点があるかのように話してきたのに、選挙戦が始まるやいなや、片や文在寅支持、片や安哲秀支持に分かれた。

文氏の支持者が安氏の支持者に対し「なぜお前が『ろうそくを掲げた』と言えるのか」と罵ったりもした。逆に安氏の支持者は文氏支持者に対し「この『ムンパ(文派)』め。こんな奴らがろうそくを掲げていたとは思わなかった」などとやり返した。

国会前弾劾可決
輪になって弾劾訴追案可決の喜びを分け合う女性たち。底抜けの笑顔がまぶしい。昨年12月9日国会前で撮影。

問:まさに「ファンダム政治」で、想像以上に冷静な議論がなかった。

:結果論になるが、「ろうそくデモ」は祭りであると同時に、省察の場であるべきだった。政治家を盲目的に支持してきた投票のかたち、有権者としての姿を反省する場になっていればよかったが、それが無かった点が惜しい。

この事がその後の大統領選挙に影響している。共に民主党の予備選候補たちや安哲秀候補は、韓国政治を一段階成熟させるために、自身の支持者を上手に導く機会として予備選を活用するべきだった。

自身の支持者が相手側の候補を非難・嘲弄をする時に「争うためにろうそくを持ったのか。お互いを認めつつ政策や人物で比較し競争してこそ、ろうそくが望む民主主義ではないか」と方向を修正できたならば、支持者達はそれを受け入れたと思う。

だが実際は、候補者みずから「私は知らない」と述べ、暗に「攻撃」をそそのかした。最後まで「ファンダム」から「市民政治」の水準に引き上げることができなかった。

だからこそ、選挙後に省察が行われるべきだ。ファンダム政治が韓国の政治発展の足を引っ張っている。

今後は有権者から市民への転換が大変重要だと見る。有権者の核心は「票を誰に入れるか」だが、市民の政治意識はそれを超える。だれに入れるかではなく「どんな理由で入れるか」が重要だという意識がそれだ。この意識転換が「ろうそくデモ」と「選挙」の二つの過程で無かった。

また、現在はカリスマのある強いリーダーを望む風潮があるが、これは民主主義的なリーダーシップではない。対話と妥協を通じ問題を解決するのが民主主義が求めるリーダーシップだ。これをできる政治家が進歩と保守、双方で増えるべきだ。




政治効能感と民主主義への懐疑

問:今回の一連の大統領選挙の過程で得たものは何か。

:市民が直接動いて政治的に大きな変化を作り出したという「政治効能感」が大きく高まった点だろう。ろうそくデモは08年にもあったが、当時は特に得たものがなかった。そして08年以降、市民の直接行動が停滞することを憂慮する声が高まっていった。

朴槿恵政権が問題が多かったにも関わらず静かだったのが「ろうそくデモ」を機に変わった。これからも希望を持てるようになった。制度政治に問題があるときは、市民が直接行動に出るべきで「何かを変えられる」という経験を蓄積した点はとても大きい。

これらの経験を通じて、政権交代という変化と、市民社会の覚醒を要求する様々な試み、例えば市民議会や選挙制度改革など、市民の関心が低かった部分への関心が増え、政治に関心が高まった。

問:韓国の民主主義はどこに向かうべきなのか?

:私は学生に民主主義を教える際に「民主主義の実態は美しいものではなく『泥沼でお互いもつれあい、もがきながら一つの問題を高尚でない方法で解決しようとするもの』と教えている。こうして経験を積んでいくのが民主主義だ。

また、苦痛に思える過程を我慢するのが民主主義だ。政治の発展に圧縮成長は存在しない。しかるべき過程を経て、泥沼が続くものだ。民主主義には白馬に乗った超人は存在しない。

弾劾は悲劇的ではあるが、社会にとっては成長痛となる。「ろうそくデモ」を経験することで喜びや、達成感、政治効能感があったが、これが持続するのは難しいという点も学んでいくべき。87年の民主化運動時にはそれを学ぶことができなかった。

さらに87年を必要以上に美化することが、その後の民主主義に悪影響を与えた側面もある。独裁者を追い出したからと、社会が突然よくなるものではない。逆に見ると、その前に独裁者と少数の者が決めていたことを国民が決めるという宿題が出されるようなものだ。「なぜ前に行けないのか」という悩みを持つのは当然だ。

今年、来年と大変な時期になるだろう。この時期に市民を政治嫌悪に戻らせてはならない。「あれだけ頑張ったのに、政治なんてこんなものに過ぎないのか」と、唾を吐いて政治から離れさせるのではなく「もともとこれも、私たちが受け止めるべき過程だし、ここまでやってこそ我々の民主主義が一歩前進する」という点を悟る、一つのきっかけになれば非常にいいと思う。

肩車の上から声をあげる少年。
肩車の上から声をあげる少年。昨年12月5日筆者撮影。

問:そう説得させるのは誰の役割なのか。大統領が説得する場合には「お前こそしっかりしろ」と言われてしまいそうだが。

:市民社会がその役割を果たすべきだ。今年の下半期からは大きな危機が来る。政権の危機ではなく、民主主義への懐疑が来ると見る。世界的に過去30年間、先進国で民主主義の信頼が約半分へと急激に低下した。韓国はまだ信頼があるが、今年の年末に訪れる大きな危機を防ぐのは市民社会だ。

これと関連し、民主市民教育が「ろうそく」以後、脚光を浴びている。87年の民主化以降、市民の民主的力量を育てていくという部分を喪失してしまった。有権者の水準が高くないため、候補者の水準もそれに従わざるを得ない。これを変えていくために市民教育が必要だという合意ができてきたのは望ましい部分だ。

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一時間半におよぶ李官厚研究教授のインタビューをできるだけ収録したが、これまでなかなか表面化せず、意識できなかった問題が浮かび上がってきたはずだ。

5月9日の選挙、10日の大統領就任を経て、新たなスタートを切る韓国を判断する一つの指針にしていただけたら幸いでである。(了)