レガシー発ソーシャル経由、路上着の軌跡

「朴槿恵大統領退陣」を求め、10月29日から12月17日まで8週にわたり行われている「ろうそくデモ」。2万人から始まったものが、わずか6週後の12月3日には全国で232万人(いずれも主催者発表)を集め、9日の朴大統領弾劾訴追案可決を導く成果を上げた。徹底した平和デモとしても知られている。

ろうそくの灯は単なる抗議にとどまらない。次期大統領の有力候補がこぞって「革命」という言葉を用いるほど建設的だ。根底には韓国人が「ヘル朝鮮」と自虐する、人間らしく生きられない社会を根本から変えようとするモチベーションが横たわる。 来年の大統領選挙はもちろん、今後の国家像の行方にも大きな影響を及ぼすと評価されるゆえんだ

12月1日に発刊されたばかりの本書は、韓国メディアが建国以来と書き立てるこの大きなうねりが、どのように起こったのかを丁寧に解き明かしてくれる謎解き本として最適の一冊となっている。

本書の表紙。題名: 朴槿恵倒れる #韓国名誉革命を率いた記者と市民たちの話 原題: 박근혜 무너지다 #한국 명예혁명을 이끈 기자와 시민들의 이야기
本書の表紙。題名: 朴槿恵倒れる #韓国名誉革命を率いた記者と市民たちの話
原題: 박근혜 무너지다 #한국 명예혁명을 이끈 기자와 시민들의 이야기

著者は「MEDIA TODAY」というメディアを監視するインターネットメディアの記者。新聞、テレビといった韓国のレガシーメディアが、「崔順実(チェ・スンシル)」という「陰の実力者=秘線」にまつわるファクトをどう暴き出したのか、そしてそれがどう市民を動かしたのかを「情報=ファクトの伝達」という観点から整理する。

堪忍袋の緒が切れた保守メディア

前半部は、朝鮮日報をはじめとする政権に近いとされてきた保守的なレガシーメディアが、どのような過程で朴槿恵政権を見限ったのかを2年前からさかのぼって説明する。著者は「朴槿恵政権は(メディアに対し)青瓦台(大統領府)に対するいかなる私的な・非公式的な接触を許可しなかった」と、崔順実ゲート以前の朴政権の3年半を総括する。

青瓦台から与えられる情報を、ただ伝達すればいいという風にメディアを「しもべ」として扱う姿勢は、直前の李明博(イ・ミョンバク)政権では「同じ側」であった保守メディアの不満を募らせたというのだ。保守メディアは国民をはじめ側近との意志疎通を嫌う「不通」という朴大統領のイメージを広め、その転向をうながした。

それにも関わらず、態度を一向に改めない朴大統領に対する保守メディアの不満が爆発したのが、今年4月の総選挙だ。大方の予想をくつがえし野党が勝利した選挙結果を真摯に受け止めず、支持率が低下し続ける大統領を前に「保守メディアは生存戦略を変えた」と著者は指摘する。

「朝鮮日報がもっとも恐れるのは、有料部数の下落や売上の現象、税務調査ではなく、イシュー選占能力の喪失である」という一文に代表される保守メディアの意識が「朴槿恵大統領を見限る」選択を取らせたというのだ。このままでは次期大統領は進歩派になってしまい、影響力が無くなるという危機感だ。

朝鮮日報は、ここから本格的な朴政権批判に突入する。7月末には朝鮮日報が禹柄宇(ウ・ビョンウ)青瓦台民情主席秘書官一家の汚職を、系列のTV朝鮮が崔順実氏肝いりの「財団法人ミル・Kスポーツ財団」の詳細を報じ始めたのだった。本命の崔順実氏へのインタビューも7月に済ます周到さであった。

だが、青瓦台は主筆の収賄疑惑を暴露するなど朝鮮日報への反撃を開始、「税務調査」をちらつかせ全面的な攻勢に出たため、9月に入りすぐ、同紙は白旗を揚げる。ここで登場したのが、同じレガシーメディアでありながら朝鮮日報とは旗幟を逆にする進歩系(革新系)の「ハンギョレ」だった。

ハンギョレは朝鮮日報の報道を引き継ぐかたちで取材を進め、「崔順実」という名前を前面に出す。本書では特に、この途中で同紙の取材団を率いるベテランの金ウィギョム記者が、朝鮮日報の方相勳社長に向け書いたコラムに注目する。

朝鮮日報の先行報道のち密さを認める一方で、方社長が数年前に語ったという乾杯の辞までを引用し、圧力に屈せず汚職をあばいて欲しいと説得する「とても丁重なコラム」はある程度功を奏し、韓国のメディア史上、類を見ない左右の「奇妙な同盟」が誕生したと著者は見立てる。




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